
来月行われる焙煎競技の予選会。今年もスタッフが挑戦するみたいで、それに向けたトレーニングに夜な夜な付き合っています。
昨年まではある程度共通した「型」を用いながら、ストライクゾーンの中のある一点(競技として求められる味わいのポイント)をどこまで「正確に」「強く」狙えるか、それを詰めて行く練習を行っていました。結果、全国で「3位」、「7位」、「9位」、別の競技会では「優勝」と、比較的コンスタントに良い成績を残せる所までは行きました。
今年はそこから残りの「あと一歩」を埋めるべく、練習のやり方を変え、あえてストライクゾーンの外側、それもボール一個分くらい外すくらいのポイントを狙って、型から外れた「普段やらない手法」、だけでなく「やってはいけない(とされている)方法」まで含めて色々な焙煎を試しました。
「正解」よりも「不正解」の方がはるかに多いため、検証は多岐にわたりとても大変なのですが、毎日きちんと課題を設定して、効率良く検証を進めておりました。
結果的には新たな「魔法のような焙煎」は生まれず、昨年同様「型」に戻って一点を狙う練習をする事となるのですが、ダメな焙煎を繰り返すことで「なぜ焙煎には一定のセオリーがあるのか」「型の意味や重要性」を、より深い所で理解する事が出来た様です。
体の使い方と焙煎機の使い方はどこか似ています。良い焙煎、狙った所にピタリと合わせる焙煎に必要なのは結局のところ「バランスのとり方」なのですが、あえてそれを崩した焙煎を試し、その「悪い味」を舌に叩き込む事で、逆にバランスのとり方や味のコントロールが格段に上手になった気がします。
競技会は相手がある事だし、周りもレベルアップしていきます。紛れが全く無いとも言い切れず、頑張ったとしても必ずしも良い結果が得られるとは限りません。さらに競技会で勝つにはある程度の「若気の至り」感というか、「若さ」や「勢い」のようなものも必要で、製品作りが上手くなればなるほど逆に「勝てるカップ」を作りにくくなってしまうのは仕方がない事かもしれません。最近の彼のカップからは良い感じに「職人感」が感じられて、それは喜ばしい事なのですが、競技者としては、どうでしょう。本番でどこまで頭を切り替える事ができるかはひとつ大きなポイントになるかもしれません。
とまれ、結果はどうであっても、そこに向けての検証や努力は必ず身に付きます。特に今年のような「勝つため」とはまた別の、基礎的なトレーニングは確実に製品作りの腕を上げてくれます。
私は常々、競技会は「手段」であって「目的」ではないと思っています。「勝つこと」が目的なのであれば、それを達成して何かを得ることが出来るのは毎年たった一人だけで、そのためにものすごく沢山の人の時間やお金や労力をかけるのはあまりに勿体無い。それよりも、その過程の中で全員が得ることが出来る何か、その方が大事だと思います。(特に業界団体が行う競技会では)
そういった意味では今年はもう彼の「勝ち(『何かを得た』という意味で)」は決まったようなものでしょう。今年は例年にない程の量と質、しかも製品作りの中では普段行う事が難しい検証を集中して行う事が出来ていると思います。そこで得られたものはとても大きく、素晴らしいものです。職人としてのステージを確実にひとつ上げており、お店の製品の品質もさらに良くなるものと期待しています。
私は競技に出る事は出来ませんが、チャレンジしてくれるスタッフがいるおかげで一緒に勉強させてもらい、毎年おこぼれをいただいて成長させてもらっています。本当にありがたい事です。