前回「でも・しかロースター」の記事を書きました。
基本的に、個人が何を考えて何を始めようと自由で、他人があれこれ言う事では無いと思っております。
(この話には続きがありますので、生意気言いますがご容赦下さい)
さて、
「ロースター‘でも’やろうか」という態度で開業相談に来る方に関しては
もし本気で職業焙煎士を目指すのであれば、という事を確認して少しお話させて頂いております。
自分で焼いて美味しかったから、面白かったから。
興味を持つきっかけは何でも良いと思うのです。
ただ、コーヒーの生豆を
「飲めるように焼く」という事と、
「自分が美味しいと思う様に焼く」という事と、
「他人に美味しいと思ってもらえる様に焼く」という事と、
「その味をずっと守っていく」という事はそれぞれ別で、
同じ味づくりではあっても求められるモノが全く違います。
焙煎士は所謂「味の世界」の「技術職」でもありますので、当たり前ですがパン職人や菓子職人、
料理人と同じく「でもやろうかな」でプロフェッショナルになれる程簡単ではないと思います。
ロースターの仕事は裏方作業です。
表周りの華やかな世界と違い、地味で格好良くはありません。
もし格好良く見えていたとしたらそれは勘違いかもしれません。
実際の仕事は粉まみれの油まみれ、暑いわ熱いわ重いわで、
やってることの大半は肉体‘重’労働もしくは内職の様に地味で細かい作業ばかりです。
コーヒー豆を趣味で焼くのはとても楽しいです。
私は今でもたまに、手編や手回しで焼いて楽しんでいます。
しかし仕事としての焙煎となると、少しイメージとずれただけで本当に最低な気分になります。
「自家焙煎」を看板に上げてしまったからには逃げ場はなく、
上手く焼けないからといって他所から仕入れる事は出来ません。
納得してお出しできる豆が焼けないと言う事は当然喫茶も出来ないという事で、
お店で販売する商品が無くなるという事です。
すぐに対策できればロスが出るだけで良い(実際は良くもない)とはいえ、
そんなに簡単に修正できるなら最初から焙煎で苦労はしません。
時には何日でも何週間でも悩んで悩んで、眠ることが出来ない時が来ます。
(実際に納得できる豆が上手く焼けずに年に何ヶ月も休んでいるお店もあります)
きちんと焼けないと本当にどうしようもないのですが、
だからといって、どれ程上手く焼けたとしても、だた「ホッとする」だけです。
気持ちがフラットな所から上に上がる事はまず無いと思った方が良いでしょう。
(なんともやるせない感じですが、それが他所様の食卓に上がる物を作るという事であり、
その責任からくるプレッシャーにどれだけ耐えながら仕事が出来るかどうかは
ひとつ大きな適正ポイントになると思います)
悲惨です。
さらに、コーヒーは真面目にやればやるほど儲かりません。
この辺りは、少しでも数字に強ければ想像は付くと思います。
あまり詳しく書くと本当に悲しくなるのでやめます。
とにかく、話せば話すほどに、このどこまで行っても報われない感じが焙煎士というポジションであり、
その焙煎士を生業としてしまったのが個人経営の自家焙煎店です。
と言うと、焙煎士は辛い事ばかりで良い所なんてほとんど無いようですが、本当です。
それが現実です。
(それでも、コーヒーに関わる事ができる喜びを心の底から湧き出し続けながら
そこに各々何かしらのやる「価値」や「意味」を見出して、
ストイックに日々仕事に励んでいるのがロースターです。
だから私は、世の焙煎士を尊敬しており、自分の仕事に誇りも持っています)
と、こんな感じの話をわーっとお伝えして(もう少しやんわりと)
「止めた方が良いとは言いませんが、あまり軽い気持ちで始めると後々後悔するかもしれませんよ、
それでも、どうしてもやりたいのですか?」
と聞くのですが、そこで顔の色を変えて「やります!」となった方には
まだ一度もお会いした事がありません。