焙煎競技会 グラフから見えるもの

ご無沙汰しております。
大会が終わり燃え尽きて、帰国してからは少し体調を崩していましたがだいぶ落ち着いてきました。
ブログも少しずつ書いていこうと思いますのでよろしくお付き合いくださいませ。
焙煎大会の様子についても、日本大会の残りから順を追って上げていく予定です。

と、その前にひとつだけ。

世界大会では順位の発表とともに上位3名のローストのプロファイルが公開されました。
同じものはこちらのサイトcropsterでも公開されております。
参考になるし、素晴らしい焙煎も沢山ありましたのでここはぜひ選手全員分発表して欲しい所です。

この時の焙煎について何件か問い合わせがありました。
グラフだけでは読み取れない部分もあると思いますので、どれだけ需要があるかわかりませんが、
意図する所や当時の環境について少し書き記しておきます。

下のグラフが私が大会で提出した豆の焙煎ログです。

まあ、なんというか、美しくは、ないですね

※データロガーのスイッチと私の相性が悪すぎて、
実際の焙煎開始とログのスタートのタイミングがどちらも2~3秒ずれています。
グラフでは温度が違いますが、実際の投入温度はどちらも190℃で一緒です。
この操作ミスに対するペナルティで無駄に4点を失いました。

私はブレンドを作ったので、二種類の違うコーヒーを焙煎しました。
上のグラフの赤い線Aがメインに使った(約8割)エチオピアのナチュラル、
青い線Bがちょい足しのエルサルバドルウォッシュトです。

それぞれブレンドの中での役割、目指す味わいが異なりましたので、
二つのコーヒーには全く違う焙煎を施しました。

豆の特徴を出来るだけ残して引き出せるように、どちらも比較的短時間の焙煎を想定していましたが、
前日のプラクティスで思った以上の排気の強さを感じたため、そこからさらに少し短めで焼いています。

その短い時間の中でそれぞれ6、7回の火力操作を行いました。
AとBでその操作のタイミングや数値が全く違うので、ログだけ見るとなんだか忙しない、
場当たり的な焙煎に見えますが、火力操作やその意図する所は先に焙煎計画書として提出しており、
これで一応予定通りなのであります。

今回は焙煎工程を4段階に分けて考えました。
計画書では[Impregnating][Dehydrating][Roasting][Development & Caramelization]と説明しています。
(実際には全て繋がっていると思うのであくまでも便宜上、
言葉も言葉遊びというか、イメージが伝われば、といった感じです)。
その各ステージで過不足なく狙った熱量を豆に入れる事を目指しました。

短時間でオーバーローストを防ぎつつ、しっかり火を通して成分を十分に発達させるには、
焙煎機の釜肌や熱風の熱の量、そしてバランスを細かくコントロールする必要があります。
今回の競技には「ギーセン」というオランダの焙煎機が使われたのですが、
ドラムの蓄熱性が思いの外高く、それはそれで機械として良い面ではあるものの、
いつも自分が使っている機械と比べると火力変化に対する反応があまりにも違い過ぎて、
操作にはかなり気を使いました。

イメージとしてはドラムの熱量の「貯蓄額」を考えながら騙し騙し焼いていく感じでしょうか。
苦肉の策、とまでは言いませんが、もう少し機械に慣れれば4段階をさらに細分化して
またその間間も調整して、もっと伸びやかでスマートな焙煎ができたかな、とは思っています。
なんにしても精一杯の焙煎ではありました。

対する他の国の代表は流石に上手な方ばかりで、
こっちが必死になって乗りこなしている機械を涼しい顔してスイスイスイと、
シームレスとでも言いますか、とてもスムースな焙煎をされていて唸らされました。
細かくみればお国柄や人柄も出ていましたが、基本的には豆にストレスを与えることなく、
シンプルに火を入れていく方が多かったように思います。

お国柄と言えば、自分の焙煎は他の選手にはどう映ったのでしょう。
(忙しないな、とは思われたでしょうが。。。)
全選手の焙煎を見て後から考えると、

この、丸で囲んだ30秒~40秒間は「和風」なのかな、など。
良し悪しはさておき、これを入れると前後をうまく調える必要があり、
競技の事だけ考えると入れない選択肢もありましたが、ここは遊びと言うか、
ちょっとした拘りなのでありました。

〔追記〕
機械の設置状況や設定に関して。
安全面からか、今回排気のコントロールは[Auto]に固定されていました。
(スタート時の送風ファンのインバーターが何kHzかは確認できず)
実際の排気の強さを表現するのは難しいですが、感覚的には日本の代理店で練習させてもらっていた
環境(35kHz×アフターバーナー)の2割増し程度、マイスターでいうと、
ニュートラルがアロマ6.0-600rpmの時のアロマ7.2-1200rpm、くらいでしょうか。
ダクトの取り回しが相当怪しかったものの、意外と引いてたので驚きました。
引きの強さ(抜け具合)のわりに温度の上がりは早かったので、
ガスの設定はわりと高めだったのかもしれません。
ドラム回転数は、任意の回転数に変える事ができましたが、
思うところあって私はどちらも[44kHz]に固定して使いました。
日本では30kHz~40kHzで練習していましたので結構な混ぜ混ぜ具合です。
ウクライナの選手が積極的に回転数を変えるシャレオツな焙煎をしていたのが印象的でした。

焙煎競技会3 決勝大会

決勝大会は東京で3日間に渡って行われました。


会場の八王子セミナーハウス。
空気は冷たく澄み渡り、遠くに富士山も見えるとても素敵な環境でした。

3日間の流れです。

・初日
 スポンサーから提供された、3種類の素性の分からない生豆をそれぞれ鑑定し、レポートを提出。
 生豆のテストローストを行い、3つの中からどの豆を使用するかを選定。   

・2日目
 スポンサー提供の焙煎機を使用して本焙煎を行う。
 焙煎作業に入る前に、どんな風味特性のコーヒーを、
 どういった工程で作り上げる予定なのかをまとめた「焙煎計画書」を提出する。
 1時間の制限時間内に規定の量を焼き上げて提出。
 焙煎工程は焙煎機に接続されたデータロガーによってパソコンに記録される。

・3日目
 カッピングによる提出豆のブラインド審査。
 審査員によってそれぞれのコーヒーに点数(SCAA評価フォーム)と味わいに関するコメントが付けられる。
 →採点集計。

■採点

1 初日に提出された生豆鑑定の正確性
2 計画書に記載された目指す焙煎の温度プロファイルと実際の焙煎ログとの比較。 
3 焙煎計画書によって事前に提出された狙いの味わい、風味特性の再現性。
4 カップクオリティ(コーヒーそのものの評価)
5 ロースターしての知識、測定機器の操作技量
6 ペナルティ

1~6までそれぞれに点数が付けられ、合計点によって順位が競われます。

審査項目は多岐にわたりますが、やる事自体は
「目の前にある生豆から最終的なカップの味わいを想像し、作り上げる」
という、ロースターが普段行っている仕事そのものです。

使った事のない機械、普段とは全く違う環境に最初は戸惑う感じもありましたが、
ロースターの本能でしょうか、生豆や焙煎機を前にしたとたん
皆真剣に、そして活き活きとした表情で豆と向き合っていたのが印象的でした。

つづく

焙煎競技会2 予選

つづきです。
少しだけ書き溜めていたものを出しています。
あまり時間が取れないため、世界大会までに記事は終わらないと思いますが、
ぼちぼち書いていこうと思いますので、興味のある方はどうぞお付き合いくださいませ。

さて、大会の正式名称は「Japan Coffee Roasting Challenge 2012」と言います。
焙煎の競技としては国内初で、前年ウィーンで開催された世界大会(の準備大会)に準拠する形で行われました。

大会はまず予選から始まります。
昨年は全国より約40名の焙煎人の方が参加されたそうです。

参加者は送られてきた課題の生豆を自店の機械で焙煎して期日までに送り返します。
運営本部に集まった焙煎豆は審査会でカッピングによって採点されます。
「ダブルブラインド」という、どれがどのコーヒーか最後まで誰にも分からない方式です。
審査は国際審査員としても活躍中のプロのカッパーによって行われました。

嗜好品でもあるコーヒーの味を誰がどうやって評価するのか、
そこが皆さん一番疑問に思うようで、
「入れ方によって味が変わるんじゃないか?」
とか
「審査員にだって好みがあるだろう」
という質問も多くいただきました。
確かに、仰るとおりです。

今回の大会では味わいの評価は「SCAAカッピングプロトコル」という、
コーヒーの品質評価の世界で、現在広く使われている方式の一つが採用されました。
その中では抽出方法は浸漬式で、粉の挽き目や量、抽出時間、水の温度、量、硬度、等
抽出条件がかなり細かく決められていますので、世界中のどこで誰が入れようと基本的にできる抽出液のブレはありません。

スコアシートもそのSCAA方式を基にしたものです。

アロマ/10点 ・フレーバー/20点 ・アフターテースト/10点
・酸味の質/10点・ボディ/10点 ・バランス/20点・総合評価/20点 計7項目100点満点。

気になる「審査員の好み」は「総合評価」の部分できちんと点数に反映されます。
ただ、全体の割合としてはそれほど高くはありません。

焙煎豆には項目ごとに点数が付けられ、そのスコア合計点の上位12名が決勝大会に進みます。


予選結果です。

結果が発表された際は、自分の名前と共に有名店の看板ロースターの名前がずらりと並んでいる事に驚き震えました。
お会いした事はないものの、焙煎豆を通してその技術の高さに勝手に尊敬していた方ばかりです。
正直、勝ち負けまでは考えられませんでしたが、
一番近い所でトップロースターの仕事に触れられる事が楽しみでもありました。
また、地元福岡から12人中4人も残っていたのも心強く、嬉しい事でした。

つづく

焙煎競技会

   「ばいせんの大会っちゃなんね?なんばするとな?」

昨年の大会に参加してから、取材の方だけでなくお客様からも同じ質問を沢山いただきました。

   「あ、缶コーヒーのCMで世界チャンピオンが出ているあれやろ?」

こちらも良く言われました。
TVをあまり見ないのでどのCMか存じ上げませんが、それもおそらく違います。
同じ「コーヒー」を扱い、運営もたぶん同じ所が行ってはいますが、
バリスタやドリップ、ラテアートなどの「抽出」や「提供」を競う技術大会とはまた部門が異なります。

昨年初めて行われた上に、競技自体が地味でマイナー、
またステージ上で行う他の華やかな競技会と違って、予選から決勝まで「無観客試合」で行われました、
って、なんだか共産圏での大会のようですね;
情報も全く出ていないようなので、知ってる人がいる方が不思議です。

私自身きちんとした競技会だと思っていますし、
月末からは競技会出場のため店を休みにして、お客様に大変なご迷惑をおかけするため、
今回は私が出場した日本の大会と、できれば今月末に出場する世界大会についても少し説明したいと思います。

その前にまずは「コーヒーの焙煎」について少しだけ。

この焙煎という作業、コーヒー好きな方は別として、一般にはまだまだあまり知られていないように感じています。
弊店でも半年以上通われてる常連さんに「ここで焼いている」と言うと「嘘でしょ」と驚かれたりして、こちらが驚きます。
(表の赤い機械は業務用のミルで、茶色い豆はどこからか仕入れていると思っている様子

焙煎とは。
簡単に言えば、豆に熱を加えて「そのままでは堅くてえぐくて飲めない生豆(なままめ)を飲用に適した状態にする」作業です。

その生豆(なままめ)に熱を入れていく過程で豆は大きく膨らんで脆くなり、
酸味だったり、苦味だったり、香りの成分だったり
「コーヒーらしさ」を形作る味や香りが形成されて
一般的によく見られる香ばしいコーヒー豆になります。

この「飲めるようにする」というのが第一の目的ですが、
その先にはもっと積極的な「味作り」があります。

豆に対する熱の加え方によって、豆の中で作られる成分、また消えていく成分が変わります。
そのため全く同じ素材を使ったとしても、使う道具によって、また作る人によっても
出来上がった焙煎豆の味わいは大きく異なります。

この「焙煎作業による味作りの技術」それを競うというのが先に行われた焙煎競技会の趣旨です。

つづく

JCRC2012

ずいぶんご無沙汰しておりました。
報告が遅くなり申し訳ありません。
先月行われた「ジャパンコーヒーローストチャレンジ2012」という
コーヒー焙煎の技術競技会に参加し、優勝することが出来ました。

→ JCRC2012結果


2位の小川珈琲(京都)野尻さん、3位の丸美珈琲店(北海道)後藤さんと。

大会予選は事務局より送られてきたコーヒー生豆を自分の釜で焙煎して提出、
ブラインド審査で点数が付けられる(SCAAベース)というものでした。
そして参加40社中、予選上位12名で争われたのが先の決勝大会です。

分かっていた事ではありますが、決勝に残った方々は本当に素晴らしい技術を持った方ばかりでした。
個人店のオーナーロースターはもちろん、
特に大きな会社の看板ロースターの方々の焙煎には圧倒されっぱなしでした。
他の焙煎人と、同じ豆を、同じ場所で、同じ釜で焙煎するという事は通常まずありません。
今回の競技会の出場は得る物の多い、とても貴重な経験となりました。

味はもちろん、競技会で審査される項目は多岐にわたります。
私は総合的な評価を頂いての優勝でしたが、一つ一つの項目を見ていくと
他の競技者に及ばなかった点、埋めるべき余地もまだあります。

来年フランスで行われる世界大会に日本代表として出場します。
自分の焙煎技術が特別なものとはこれっぽっちも思ってはおりませんが、
今回競技に参加された方々の代表として、恥ずかしくない焙煎が出来るよう
あと半年ではありますが精進を続けていきたと思います。
応援の程どうぞよろしくお願い致します。

競技中はとにかく焙煎する事で一杯だったので
終わって優勝ですと言われても正直実感はないのですが、
自分自身よりも周囲が、とくにお店のお客様や家族が喜んでくれた事が嬉しかったです。
本当に有り難いことです。


結果報告後、家族から送られてきた画像。

長男が作っていてくれた金メダル。
どちらも宝物です。

今年初めて行われた競技会ですので興味のある方もいるかもしれません。
大会の様子や詳細についてはまた機会があれば紹介したいと思います。

大会の様子がざっくりと分かる、面白い映像を発見しました。
World Coffee Roasting Championship 2013
日本大会もほぼこんな感じでした。

ルール詳細はこちら→JCRC2012競技規約


会場の八王子セミナーハウス。
素晴らしい環境でした。

取り急ぎご報告まで

ご無沙汰しております。

暦の上では秋を迎えましたが暑い日は続いております。
ホットコーヒーが恋しくなる季節まではまだまだ、もうしばらくといったところでしょうか。

先日コーヒー鑑定の競技会に参加してきました。
「ジャパン カップテイスターズ チャンピオンシップ (JCTC)概要 」という大会です。

その予選が神戸と東京で行われ、全国から集ったコーヒー鑑定士や焙煎人、バリスタなど
日頃業務でカッピング(味利き)をしているコーヒーマン約60名がその味覚の正確性とスピードを競いました。

私は先に行われた関西予選に参加しました。
関東予選の結果待ちでしたが先日発表があり、おかげ様で無事に予選を通過することが出来ました。
ジャパン カップテイスターズ チャンピオンシップ (JCTC) 2012準決勝進出者

準決勝・決勝大会は9月28日東京ビッグサイトで行われ、
東西含めた予選上位8名でカップテイスティングの日本一が競われます。
優勝者は日本代表として来年の世界大会に派遣されるそうです。

競技に出て色々と思う所もありますが、取り急ぎご報告させていただきます。
まずは決勝の4人に残れるよう頑張りたいと思いますので
応援の程どうぞよろしくお願い致します。

JHDC2012

今秋東京でハンドドリップの全国大会が開かれます。
『ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ2012』←詳細はこちら 
9月の決勝大会に向けて来月から地方予選が始まります。

九州予選が福岡で行われる関係からか、出場する方が周りにも結構います。
プロ・アマ問わないオープンな大会なので一般の方の参加も多い様子。
当店のお客様やコーヒー教室を受けていただいた方の中からも何名かエントリーされている様です。
優勝すると日本代表として世界大会に行けるそう。凄いですね。

思う所もあって私は出場しませんが後学のために
ルールを読みながら一人でちょこちょこ落としてみたりしています。

そのルールの中に『250ml~300ml』という抽出量の規定があります。
ブラインド(目隠し)できっちりその範囲内で落とせ、というものです。

普段目隠しで入れることなど無いので難しそうに感じましたが、実際にやってみると意外にできるものです。

普段ドリップしてる人なら感覚だけでも何とかなりそう。


ギリギリを狙った目隠しエア抽出でもこの通り。

勘違いでずっと完全目隠しでやってましたが、
実際の競技では透明のサーバー(目盛りは無い)
が使えるみたいなので少しだけ楽かもしれません。

とはいえ、普段と違う環境で極度な緊張などあれば
微妙な感覚なんて簡単に狂います。
ある程度練習や対策等が必要でしょう。

規定の量から1mlでも外れると一発アウト、という中々厳しいルールですが、
肝心の味作りはもっともっと難しい。
出場者の皆様がこんな所で‘足きり’に合わぬ様、陰ながら祈っております。

皆さん頑張ってください。
応援しています。

エアロプレス検証 〈フィルター〉

先日行われたエアロプレスの大会に選手として出場しました。エアロプレスという抽出器具ををご存じない方も多いと思います。私自身大会直前に入手して未だにわからない事だらけの初心者です。正しい器具の使い方や美味しい入れ方等については販売店や詳しい方々がホームページ等で紹介してると思いますのでそちらを参考にされて下さい。ここでは器具の抽出検証や大会に向けての味作りの中で感じた事を書き残しておきたいと思います。

事前に発表されていた今大会の審査基準は二つ、「甘さ」と「質感」でした。器具入手から時間も無かったのでまずはその主題に絞って色々と検証してみました。基本的にこれは個人的な研究、遊びのようなものです。遊びに大切な商品は使えません。たまたま先日行われた焙煎のワークショップで提出しなかった焼豆(商品にもできない)があったのでそれを使いました。効率良く抽出の検証を行うためには同じ豆を使うことはもちろん、検証し易い豆を使うというのもポイントかもしれません。その意味では良い豆でした。

「甘さ」は少し大変なので後回しにして、先に「質感」から探っていきます。

この器具には付属のペーパーフィルターの他に別売りの金属フィルターもあります。まずはこのフィルターによる味わい、質感の違いを調べました。安定した液体を作るため、液が漏れない逆さま抽出(レシピ:お湯200cc-メッシュditting♯8-浸漬3分撹拌無し-加圧20秒)で検証を行いました。

テイスティングの印象です。

■ペーパー 
紙の剛性と器具自体の作りの甘さで想像以上に微粉やオイルが混ざる。偶然なのか、加圧の加減によってはオイルの混ざり具合が絶妙に良い感じ。ペーパーというよりはネルで漉したような柔らかく魅力的な質感。

■金属フィルター
わりと想像通りの味わい。この入れ方においてはフレンチプレスの様な印象。オイリーな質感は良いもののいかにも金属フィルターを通したという味わいが気にはなる。少し搾り出した感じで酸や質感が気持ちシャープ。オイル分が多いのに固い印象。
(たまに感じるこの金属と反応したような味わい。焙煎豆由来のメタリック同様、液体から確かに感じられるものもありますが、今回の大会のある体験からそこにはある種の「気のせい」も含まれているような気がしてきました。もしかすると金属フィルター派の人達が感じる「紙臭さ」も似たようなものかも。ひとつ思う所がありますが、それはまた別の機会に)

■ペーパー+金属フィルター
ペーパーが意外なほどバカなので剛性を上げるために間に金属フィルターをかます。微粉やオイルの量がグッと減り、液質だけで言うとペーパーで漉したようなクリアな感じに。見た瞬間「お!」となるも。。。抵抗が増えた分圧力が強くかかるのか、そのままでは無理やり絞り出したような嫌な味わい強く出た。酸の固さが増し、部分的に過抽出も起こっている様子。液体の透明感が上がっても味わいの透明感(クリーンカップ)が下がっては意味がない。フラットでティーライク。アフターの香りの広がりなど良い面はあるものの今回のテーマからは一番遠い所にある感じ。

以上です。フィルターの素材によって質感に違いが出るのは想像できましたが、単純にそれだけでもない様です。他の容器で浸漬した粉と液体をこの器具に移し替えてプッシュした結果も同じように質感だけでなく味わいそのものが大きく変わりました。これくらいの抵抗でも、加圧する際の圧力は抽出に影響を与えるようです。また圧が上がる程メッシュ(粒度)の影響も強く出ます。もう少し大らかな抽出器と思っていたのですが、中々繊細な面も持っている模様。面白いですね。

その後も色々と検証した結果、抽出条件にの変化に対する反応はペーパーが一番フラットというか、直感的で扱いやすい感じでした。マウスフィール(口当たり)の印象も良好。ネルっぽい質感がうまく出せたら面白いかなと思って最終的に使用するフィルターは標準のペーパーに決めました。

おしまい。

キワキワの焙煎

暖かい日が続いたせいか、お店でもアイスコーヒーの注文が増えてきました。
取引先のご依頼で今年初めてアイスコーヒー用のブレンドを焼いています。

2ハゼ終了‘から’の焙煎。当店では最も深い、一般的にはフレンチローストとかイタリアンローストと呼ばれる焙煎度合いです。ここまで煎り込めば当然苦味はかなり出てくるのですが、当店の深煎り珈琲は‘濃く’‘丸く’’柔らかい’苦味の形成を目標として味作りを行ってますので、飲んでも意外と「強さ」は感じないかもしれません。イメージとしては焼いて苦味を出すのではなく、苦味を煮詰めて濃くしていく感じです(といってもまあ焼くのですが;)。ただ、これが言うは安しで、ここまで深煎りになるとほんの少しの火力、排気の設定ミスでとたんに焦げたきつい苦味や煙がかぶったような嫌な味わいが出てしまいます。極深煎りの難しい所です。難しいと言えば、本日行われる焙煎のワークショップは1ハゼピークの極浅煎りで出しました。深煎りとは全く違ったアプローチでの味作りではありますが、ストライクゾーンの狭さ、ほんの少しのミスで全く別物のコーヒーになるという難しさはどちらも共通しています。普段はあまりこういった綱渡り的なキワキワ焙煎は行いません。お客様の珈琲を焼く業務の焙煎は、まず失敗が許されず一番の目標が「安定」となるため、できるだけマージンを大きく取った味作りを心がけています。ただたまにはこういった難しい焙煎をやる意味はあると思っています。味作りの引き出しも増えて色々勉強にもなりますし、日々の味作りの中で味を安定させる事、より細かなニュアンスを出していく事等が簡単に感じられるようになります。最大筋力、自分の能力の何割を使って日々仕事を行っているかは結構重要な事です。手抜きというわけではなく、無理なく日々のパフォーマンスを上げるためには筋トレ的な、一見全く無駄と思えるバッチが、そして客観的な検証が必要だと感じております。・・・とかなんとか。いい加減頭がふやけて呂律も回ってない気がします。焙煎人も意外と色々考えながら豆を焼いてます。ただ火を通す、豆に色を付けているわけではないようですよーと、釜が冷えたようなので今日はここまで。

カリブレーションテスト

Qグレーダー/SCAAカッピングジャッジという国際的なコーヒー鑑定士の資格があります。
資格を得るにはSCAAの認定ラボ(アメリカ、ブラジル、日本)で1週間に渡るトレーニングを受け、
20項目の試験全てにパスする必要があります。(トレーニング・試験の内容は世界共通)
詳しくはこちら→「Qグレーダーとは」

ジャッジは生豆の外観と共に、規定通りに焙煎-粉砕-抽出された液体の香味を評価してグレードを決定します。
その際「カッピングフォーム」というジャッジペーパーを使ってコーヒーに点数をつけていくのですが、
各項目の点数を好き勝手に付ける事は許されておらず、
客観性を保ちながらジャッジ間で一定のコンセンサスを得られるような評価をしていかねばなりません。
(一応個人の嗜好も反映される仕様になっているものの、点数の割合は全体の1割程度)
そのためにジャッジにはトレーニングによる評価基準の刷り込みと、
自身の評価がその基準とずれていないか、定期的な確認・刷り合わせが求められます。

このQグレーダー/カッピングジャッジは永久資格ではありません。
ジャッジとしてコーヒー評価の能力を維持できているか、またその評価がSCAAの基準から大きく外れていないか、
資格を更新するためには3年ごとに「カリブレーションテスト」という試験を受けそれをパスする必要があります。
(更新制に関しては意見の分かれるところです。個人的には資格の「本来の目的」のためには
必要な措置ではないかと思っています。ただ、負担は大きいです・・・)

先日東京でそのテストを受けてきました。
試験なので事前のカリブレーションミーティングやものさしとなるリファレンスカップはありません。
いきなりジャッジペーパーを渡され、後は淡々と5カップ×6種類目のコーヒーをカッピングしていきます。
それが3ラウンド。1ラウンドの制限時間は1時間です。

ジャッジペーパーは回収され、それを元に合否が決まります。
採点基準の詳細はわかりませんが
「SCAA基準における良いコーヒーとそうでないコーヒーにきちんと差をつけて仕分けられているか」
「各項目の点数やコメントに妥当性があるか」
「同じコーヒーに対して同じ評価を下せているかどうか」
「欠点の味わいをきちんとチェックできているかどうか」
このあたりがポイントになりそうです。

カッピングは全てブラインドで行われるため試験中はどんなコーヒーを飲んでいるか分かりません。
全てのラウンド終了後、参考にとコーヒーの素性とともに試験官のジャッジ点数が発表されました。

それがこちら。(農園名等は伏せています)
黄色が試験官の点数、右が私の点数です。

ラウンド1(ブラジル)
1「C」 セラードN          M83.75 82.75
2「S」 セラード PN        M65.25 80.5
3「C」 カルモデミナスPN      M60.0 72.25(uni▲6 taint▲2)
4「H」 ミナスジェライスNスマトラ種 M80.25 78.5(taint▲2)
5「S」 カルモデミナスPN      M81.5 82.75
6「N」 ミナスジェライスN      M69.75 75.25

ラウンド2(中米)
1 コスタリカ「D」          M80.75 79.75
2 グアテマラ「L」アンティグア    M71.5 75.5(uni▲2 taint▲2)
3 コスタリカ「C」          M82.75 83.75
4 コスタリカ タラス         M83.5 84
5 グアテマラ「C」          M81.75 73.25(uni▲4 taint▲4)
6 パナマ 「E」           M88.75 89.25

ラウンド3(東アフリカ)
1ブルンディ              M80.25 81.75
2エチオピアN             M80.0 79.0
3ケニア ピーベリー          M85 85.5
4ケニア「N」             M84.0 82.75
5エチオピア シダモW         M77.5 69.75(swt▲2 CC▲2 uni▲2 fault▲4 )
6ケニア「M」             M77.5 81

(数字の目安として、70点以上がプレミアム、80点を超えるコーヒーが所謂「スペシャルティコーヒー」に分類されます。
さらに85点以上はしっかりとした個性の感じられる素晴らしいコーヒー、
90点以上はめったにお目にかかる事のできない驚きの品質のコーヒー、・・・とされています。
ジャッジは「仕分け人」ですのでまずはこのボーダーラインを意識する必要があります。)

ものの見事に同じ点数が無いのはご愛嬌
グレーディングは出来ていると思うのでこのくらいは大丈夫、、、かと。。。
大きく点数が異なるコーヒーに関してはテーブルによるカップの違いもあると思います。
今回のコーヒーにはクリーンカップに問題のあるものや欠点の味が出ているカップが数多くありました。
それらは自然に出ている物と試験のためわざと入れられている物両方あり、テーブルによってその数や強さは異なります。
自分のテーブルのコーヒーの欠点の味をちゃんと拾ってさえいれば問題ない気がします。

少し心配なのは欄外に余計な所感を書きすぎた事と、
ディフェクトチェックのコメント(古い、カビ臭、薬品臭、未熟豆混入等)の正否、
それと単純な計算ミスがないか、です。
(試験を受けるまでてっきりタッチパネルのPDAで入力していくものと勘違いしていました。
まさか紙とは。。SCAA方式は0.25点単位で点数をつけていくので計算がかなり面倒です。
受験される予定の方は電卓を持って行く事をおススメします)

試験の印象として残っているのは同じコーヒーのカップごとの味のバラつきの大きさと、欠点の味が出てるカップの多さです。
当然のことながら、大きめのロットを見る事に長けたSCAA方式の特徴に良く合う内容の試験だと感じました。

それとこれは直接試験と関係ありませんが試験に出たあるコーヒーが、
数年前の物で古い欠点の味が出ていたにも関わらず凄い存在感があって、、、色々と考えさせられました。

合否はまだ分かりませんが落ちていたら同じ内容の追試を受けなければいけません。
そこで落ちるとさらに厳しい内容の試験を受け、さらにそこで落ちると資格の停止、トレーニングから受けなおしとなります。
そんなに何度も受験する余裕も無いので無事パスしている事を祈っております

さて、資格はともかく、グレーディングの勉強をする意味あいは色々あると思います。
コーヒーの品質に関して、国や立場を超えて世界中のジャッジ間で共通の認識と言語を使えるのはやはり便利です。
点数を付ける事で本当の意味で点数から開放され、コーヒーときちんと正対する事ができるようになる、
怪しげな宣伝文句に踊らされる事もなく、点数‘至上主義’対‘アンチ’の本質から離れた不毛な議論からも距離を置く事もできるでしょう。

ただ、基本的にこれはコーヒー‘生豆’の品質を測る一つの「ものさし」、ただの道具でしかありません。
目的があってこその手段です。道具は使えるようになったからといって喜ぶものではなく、
誰かの、何かのために使ってなんぼだと思うのですが、どうでしょう。

どちらにしても、その道具の利点や限界をきちんと把握する事でそれをどう使うか(または使わないか)を
自分自身で決める事が出来るようになるのは大きなメリットではないかと考えています。

ここ最近、カッピングや資格に関する質問を受ける事が続いたので思う所を少し書いてみました。
他にも色々とメリット、デメリットあると思いますが、とりとめがなくなりそうなので、この辺りの事はいずれまた。