カリブレーションテスト

Qグレーダー/SCAAカッピングジャッジという国際的なコーヒー鑑定士の資格があります。
資格を得るにはSCAAの認定ラボ(アメリカ、ブラジル、日本)で1週間に渡るトレーニングを受け、
20項目の試験全てにパスする必要があります。(トレーニング・試験の内容は世界共通)
詳しくはこちら→「Qグレーダーとは」

ジャッジは生豆の外観と共に、規定通りに焙煎-粉砕-抽出された液体の香味を評価してグレードを決定します。
その際「カッピングフォーム」というジャッジペーパーを使ってコーヒーに点数をつけていくのですが、
各項目の点数を好き勝手に付ける事は許されておらず、
客観性を保ちながらジャッジ間で一定のコンセンサスを得られるような評価をしていかねばなりません。
(一応個人の嗜好も反映される仕様になっているものの、点数の割合は全体の1割程度)
そのためにジャッジにはトレーニングによる評価基準の刷り込みと、
自身の評価がその基準とずれていないか、定期的な確認・刷り合わせが求められます。

このQグレーダー/カッピングジャッジは永久資格ではありません。
ジャッジとしてコーヒー評価の能力を維持できているか、またその評価がSCAAの基準から大きく外れていないか、
資格を更新するためには3年ごとに「カリブレーションテスト」という試験を受けそれをパスする必要があります。
(更新制に関しては意見の分かれるところです。個人的には資格の「本来の目的」のためには
必要な措置ではないかと思っています。ただ、負担は大きいです・・・)

先日東京でそのテストを受けてきました。
試験なので事前のカリブレーションミーティングやものさしとなるリファレンスカップはありません。
いきなりジャッジペーパーを渡され、後は淡々と5カップ×6種類目のコーヒーをカッピングしていきます。
それが3ラウンド。1ラウンドの制限時間は1時間です。

ジャッジペーパーは回収され、それを元に合否が決まります。
採点基準の詳細はわかりませんが
「SCAA基準における良いコーヒーとそうでないコーヒーにきちんと差をつけて仕分けられているか」
「各項目の点数やコメントに妥当性があるか」
「同じコーヒーに対して同じ評価を下せているかどうか」
「欠点の味わいをきちんとチェックできているかどうか」
このあたりがポイントになりそうです。

カッピングは全てブラインドで行われるため試験中はどんなコーヒーを飲んでいるか分かりません。
全てのラウンド終了後、参考にとコーヒーの素性とともに試験官のジャッジ点数が発表されました。

それがこちら。(農園名等は伏せています)
黄色が試験官の点数、右が私の点数です。

ラウンド1(ブラジル)
1「C」 セラードN          M83.75 82.75
2「S」 セラード PN        M65.25 80.5
3「C」 カルモデミナスPN      M60.0 72.25(uni▲6 taint▲2)
4「H」 ミナスジェライスNスマトラ種 M80.25 78.5(taint▲2)
5「S」 カルモデミナスPN      M81.5 82.75
6「N」 ミナスジェライスN      M69.75 75.25

ラウンド2(中米)
1 コスタリカ「D」          M80.75 79.75
2 グアテマラ「L」アンティグア    M71.5 75.5(uni▲2 taint▲2)
3 コスタリカ「C」          M82.75 83.75
4 コスタリカ タラス         M83.5 84
5 グアテマラ「C」          M81.75 73.25(uni▲4 taint▲4)
6 パナマ 「E」           M88.75 89.25

ラウンド3(東アフリカ)
1ブルンディ              M80.25 81.75
2エチオピアN             M80.0 79.0
3ケニア ピーベリー          M85 85.5
4ケニア「N」             M84.0 82.75
5エチオピア シダモW         M77.5 69.75(swt▲2 CC▲2 uni▲2 fault▲4 )
6ケニア「M」             M77.5 81

(数字の目安として、70点以上がプレミアム、80点を超えるコーヒーが所謂「スペシャルティコーヒー」に分類されます。
さらに85点以上はしっかりとした個性の感じられる素晴らしいコーヒー、
90点以上はめったにお目にかかる事のできない驚きの品質のコーヒー、・・・とされています。
ジャッジは「仕分け人」ですのでまずはこのボーダーラインを意識する必要があります。)

ものの見事に同じ点数が無いのはご愛嬌
グレーディングは出来ていると思うのでこのくらいは大丈夫、、、かと。。。
大きく点数が異なるコーヒーに関してはテーブルによるカップの違いもあると思います。
今回のコーヒーにはクリーンカップに問題のあるものや欠点の味が出ているカップが数多くありました。
それらは自然に出ている物と試験のためわざと入れられている物両方あり、テーブルによってその数や強さは異なります。
自分のテーブルのコーヒーの欠点の味をちゃんと拾ってさえいれば問題ない気がします。

少し心配なのは欄外に余計な所感を書きすぎた事と、
ディフェクトチェックのコメント(古い、カビ臭、薬品臭、未熟豆混入等)の正否、
それと単純な計算ミスがないか、です。
(試験を受けるまでてっきりタッチパネルのPDAで入力していくものと勘違いしていました。
まさか紙とは。。SCAA方式は0.25点単位で点数をつけていくので計算がかなり面倒です。
受験される予定の方は電卓を持って行く事をおススメします)

試験の印象として残っているのは同じコーヒーのカップごとの味のバラつきの大きさと、欠点の味が出てるカップの多さです。
当然のことながら、大きめのロットを見る事に長けたSCAA方式の特徴に良く合う内容の試験だと感じました。

それとこれは直接試験と関係ありませんが試験に出たあるコーヒーが、
数年前の物で古い欠点の味が出ていたにも関わらず凄い存在感があって、、、色々と考えさせられました。

合否はまだ分かりませんが落ちていたら同じ内容の追試を受けなければいけません。
そこで落ちるとさらに厳しい内容の試験を受け、さらにそこで落ちると資格の停止、トレーニングから受けなおしとなります。
そんなに何度も受験する余裕も無いので無事パスしている事を祈っております

さて、資格はともかく、グレーディングの勉強をする意味あいは色々あると思います。
コーヒーの品質に関して、国や立場を超えて世界中のジャッジ間で共通の認識と言語を使えるのはやはり便利です。
点数を付ける事で本当の意味で点数から開放され、コーヒーときちんと正対する事ができるようになる、
怪しげな宣伝文句に踊らされる事もなく、点数‘至上主義’対‘アンチ’の本質から離れた不毛な議論からも距離を置く事もできるでしょう。

ただ、基本的にこれはコーヒー‘生豆’の品質を測る一つの「ものさし」、ただの道具でしかありません。
目的があってこその手段です。道具は使えるようになったからといって喜ぶものではなく、
誰かの、何かのために使ってなんぼだと思うのですが、どうでしょう。

どちらにしても、その道具の利点や限界をきちんと把握する事でそれをどう使うか(または使わないか)を
自分自身で決める事が出来るようになるのは大きなメリットではないかと考えています。

ここ最近、カッピングや資格に関する質問を受ける事が続いたので思う所を少し書いてみました。
他にも色々とメリット、デメリットあると思いますが、とりとめがなくなりそうなので、この辺りの事はいずれまた。

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